『Lady Generation』

(Episode 3)

前編


構想・打鍵:Zeke

 この作品はフィクションです。登場する人物、名称、土地、出来事等は実在するものではありません。
 また本作は(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を設定として使用しております。

管理人注

 この物語にはツインストーリーが存在します。kuropaさんのページおはなしの部屋の中にある「あなたと冬休み」第1話〜第4話を是非ご覧になって下さい。:-)





「頼む! 龍之介。 オレと一緒に旅行に行ってくれ。」
 八十八学園の南棟2階にある一年A組の教室、その一角で柔道着を身にまとった大
男が、龍之介の前で両手を合わせ、頭を下げていた。
「すまない、あきら。俺はお前の想いに応えてやることは出来ないんだ。」
 なんともバツの悪い表情で大男の誘いを断るのは、我らが(我ら?)龍之介。
「そんなこと言わずに頼むよ。俺は勇気を出して洋子を誘ってみるからさ。」
「は? 洋子? なんだ俺はまたてっきりお前と二人きりだと‥‥」
 【誰が喜ぶんだ? そんな展開‥‥】
「どうしてお前と二人きりになりたくて、頭を下げにゃならんのだ?」
「そう言われればそうだな。で? お前が洋子を誘うって事は、二人で洋子を襲うの
 か? 健全な青少年のする事じゃないぞ。」
 【とっかえひっかえ女の子をデートに誘うのは健全なのか?‥‥待てよ、見ように
  よっては健全かもしれないな。】
「ばか言え、二人掛かりで襲っても、返り討ちにあうのが関の山だ‥‥って違ーう!
 俺は洋子を誘うから、お前は他の娘をだな‥‥」
「あきら!」
 突如椅子を蹴って立ち上がる龍之介。
「な、なんだよ。」
「お前、いい奴だなぁ。」
 親友(突然親友)の両肩をポンポンと叩き、感涙に咽(むせ)ぶ龍之介。
「じゃあ行くんだな。日時は12月の28日〜30日の2泊3日だ。」
「なんだ、結構先の話なんだな。まあいいや、それにしても2泊3日か‥‥俺なら十
 発3日だな。」
 【若いっていいな。一晩五発か‥‥って、そうじゃない! こんな事ばっかやって
  るからお笑い作家と間違われるんだな、きっと‥‥。】
「ああ、それから一応コレは当人以外は他言無用だ。」
「まかせとけ、俺の口は堅いんだ。一部物理的にも硬いが‥‥。」
 【だから‥‥】
「昔から歯は丈夫だったんだ。」
 【あ、歯ね。】
「それじゃ、俺は部活に行くからな。うーし! がんばるぞぉ。」
 下駄の音を響かせながら教室を出て行くあきら。
「怪我なんかするなよ〜」
 ハンカチなぞ振りながらそれを見送る龍之介。一見美しい友情に見えるが、真相は
怪我をされて旅行に行けなくなるのを心配してのことだ。

 一応、あきらが教室から出て行くまで振っていたハンカチをポケットにしまい、
「さてと、問題は誰を誘うかだが‥‥」
 椅子に座り、腕組みしながら考え込む。その正面で龍之介の顔をじっと見ている少
年、もとい少女が一人。
「なんだよ、いずみ。俺の顔になんか付いてるか?」
「‥‥なあ、どうしてあきらの奴は、私がいるのにあんなベラベラ喋っていったんだ
 ろう?」

 実はあきらが来る前、龍之介はいずみと談笑していた。
 龍之介にとっては他愛の無いお喋りだったが、いずみにとっては貴重な瞬間(とき)
だった。なにしろ‥‥
 友美はクラス委員の集まり、可憐は仕事、みのりはバイトで早々に引き上げ、中途
入学(?)した桜子はまだ通院しなければならないようで早退。
 そしてもちろん唯はいない。(註:唯はまだ女子校にいるのだ。)
 これがどれだけ貴重なことか、読んで下さっている諸兄の方々にはお解りいただけ
るだろう。
 【え、なに? どうして桜子ちゃんが同じクラスにいるかって? 
  問題児は全て一ヶ所に集めるのが、八十八学園の方針なんだってさ。決して、話
  が面白くなるとかそういう考えでは無い。‥‥多分‥‥きっと恐らく。】
 兎に角、その貴重な瞬間(とき)の一部をあきらに奪われ、しかもいずみ本人はま
るっきり無視されていたのだ。

「小さくて見えなかったんじゃないか。」
 相変わらず容赦がない龍之介。
「私は米粒か? それにこう見えても、あと5ミリで150センチの大台に乗るんだ
 ぞ。」
 【150センチが大台と言っている辺りが既に自爆ものだと思う!】
「いずみ‥‥。」
「な、なんだよ。」
 龍之介の切り返しに備え、身構えるいずみ。しかし、龍之介の口から出たのは、全
く予想の出来ない言葉だった。
「一緒に‥‥行かないか?」
「‥‥へっ? 行くって‥‥何処へ?」
「お前$今の話聞いてなかったのかよ。」
「‥‥それって、あきら達と行く旅行のことか?」
「そうだよ。」

 【二人の間に流れる沈黙の数秒。題して「サイレントセコンド」コレになんの意味
  があるのかと言えば、はっきり言って何もない。じゃあなんでこんな事を書いて
  いるかというと、この間ずっといずみは沈黙していたからだ。
   つまり、この間(ま)を文章で表す低級テクニックなのだっ!】

「え――――――――っ! だ、だって2泊3日だろ? 二晩一緒にいるんだろ?」
 たっぷりと間を取った後、教室中に響きわたるような声で反応するいずみ。
「あんまり2泊3日の日帰り旅行ってのは、聞いたこと無いな。」
 【日付変更線を行ったり来たりすれば何とかならないか? ‥‥無理か。】
「だ、駄目だよ。うちは今時門限がある位だから‥‥。2泊3日のしかも男友達が一
 緒の旅行なんて、許してくれる訳ないよ。」
 そう言って、寂しそうな笑顔を龍之介に向ける。
「そうか‥‥じゃあ仕方がないな。」
「ごめん‥‥せっかく誘ってくれたのに‥‥。」
 俯くいずみ。そしてそのまま上目遣いに龍之介を見ながら、聞いてみる。
「‥‥龍之介はさ、私が行かなかったら、他の誰かを誘うんだろ。」
「ばか言うなよ、いずみが行かないならこの話は断るさ。」
 間髪入れず答える龍之介。
「えっ!」
 信じられない、といったように大きく目を見開くいずみ。
「あきらには俺から謝っとくから、いずみが気にすること無いよ。」
「りゅ、龍之介。」
 目を潤ませて感動に打ち震えるいずみ。
 【でもないずみ、これ『Lady Generation』なんだ。悪いけど‥‥。
  お約束は守らなくちゃいけないんだぁ!】

「いずみちゃん、お待たせー。あら、龍之介君も一緒だったの?」
 委員集会が終わったのか、友美が二人の間に入ってくる。
「おっ、友美。ちょうど良かった。お前さ、今月の28日から30日暇か?」
 ぶちっ! 
 【あれ? 今なんか切れた音がしたような‥‥。】
「‥‥えーと」
 宙を見上げ考え込む友美。この娘はスケジュール帳を見ずとも、自分の予定くらい
は、頭に入っているのだ。
「28日に予定が入ってるわね。でもなんで?」
「いや、ちょっとな。」
 再び腕組みをして考え込む龍之介。
「あっ、いけない。忘れ物しちゃった。ごめん、いずみちゃん。取ってくるからもう
 少し待ってて。」
 いずみの返事を待たずに、都合良く友美は教室を出ていった。

「そうなると残るは、可憐ちゃんとみのりちゃん、桜子ちゃんか。」
 まだブツブツ言いながら考え込んでいる龍之介。
「おい‥‥」
「まあ、最悪誰も都合がつかなかったら、唯がいるしな。あいつならまず間違いなく
 一緒に行ってくれるだろう。」
 【龍之介‥‥お前いつか刺されるぞ。】
「おい、龍之介。」
 【その前に目の前にいる娘に、射殺されそうだけど。】
「なんだよ、いずみ。」
 振り返った龍之介の目の前15センチの場所に、矢の先があった。
「お前、さっき私が行かなかったら、旅行の話は断るとか言ってなかったか?」
 怒りのあまり矢の先がぷるぷる震えている。
「言ったよ。」
 いとも平然と言ってのける龍之介。
「だったら、どうして友美を誘うんだよ!」
「お前なぁ、いくら俺だって『いずみが行かないなら他の娘を誘うからいいよ。』な
 んて極悪非道なことは言わないぞ。」
 【そりゃ確かに言ってはいないけど‥‥だからって行動に移すのは考え物だぞ。】
「はあ〜〜〜。感動した私がバカだった。」
 深く深く溜息をつくと、いずみは番(つが)えていた矢を下ろした。そして一言。
「私、行く。」
「え? いいのか門限は?」
「何とかなるよ。私だって子供じゃないんだ。それに、私が行かないと他の娘がお前
 の毒牙に掛かるんだろ?」
 【それが解ってて、行くのか? 蜘蛛の巣にわざわざ掛かりに行くようなもんだぞ。
  それにいきなり一晩に5回も耐え‥‥D^6J^78^<,_(x_x)7-3

 こうして、1人抜け駆けに成功したいずみ。
 しかし、このシリーズで初期段階に抜け駆けして成功した例はない。
 現に今も八十八商店街で以下の様な事が起こっていた。

 からんからんからん!
「おめでとう! 特賞の冬至温泉、2泊3日のバス旅行ツアーです。」
 歳末売り出しに付き物の福引き、あの空くじ無しというのが、どうにも納得が行か
ないアレである。
「わー、嘘みたい。ね、おじさん、これ何人で行けるの?」
 髪の毛を頭の上でまとめ、それにリボンを結わえ付けた女の子(唯だ)が、景品を
手渡してくれた初老の男に尋ねる。
「4名様までご招待だよ。」
「3人で行っちゃ駄目かな?」
「行ってもいいけど、1人分は無駄になっちゃうよ。」
「うん、それならいいの。」
 ちょこん、とお礼の印に頭を下げると、唯は福引き会場を後にした。

「冬至温泉かぁ。3人で旅行なんて久しぶりだな。」
 もちろん、唯本人と美佐子、龍之介の3人である。
「あ、でもお母さん喫茶店休めるかな? ‥‥もし駄目だったら‥‥お兄ちゃんと
 二人っきりで‥‥」
 1人悦に入る唯。
「二人でスキーやって、二人でご飯食べて、それから‥‥二人で一緒に温泉入って、
 それで‥‥それで‥‥二人で一緒に‥‥7,/。」
 すっかり舞い上がっている。このままいくと、例え喫茶店が休めても、美佐子さん
は1人でお留守番だ。
「あ、でもこれっていつなんだろう?」
 ごそごそと袋を開け、券を取り出してみる。
「12月29日から12月31日か。お正月はこっちにいるんだ。初詣もお兄ちゃん
 と一緒に行けるかなぁ。」

            ☆            ☆

 かららん!
「いらっしゃいませ。」
 カウベルの音で、反射的に美佐子は店の入口へと視線を向けた。
 今日もそこそこ忙しく、朝から客足が絶えないのは、この閑静な住宅街にある喫茶
店にとしては不思議な事だった。
「あら、唯なの。」
 だが、今店内に入ってきたのは客などではなく、彼女の愛娘、唯だった。
「はい、これ。頼まれてた物。」
「ご苦労様。お釣りはお駄賃としてあげるわ。」
 【そんな、小学生の低学年じゃあるまいし‥‥】
「わーい。」
 【って、喜ぶほどのお釣りがあったのか?】
 よっぽど嬉しかったのか、スキップしながら、勝手口から居間へ戻ろうとする唯だ
が、ふと思い出したように、
「あ、お母さん、ここ(憩)って29日は営業するの?」
「もちろん営業するわよ。なんたって『憩』は、正月の三ヶ日以外年中無休なんだか
 ら。でもなんで?」
「あはは。ち、ちょっとね‥‥」
 はぐらかすような笑いを美佐子に向け、唯は二階にある自室へ駆け上がった。
「そっかぁ、お母さん仕事なんだ。じゃあ温泉旅行は行けないよね。」
 【‥‥ちゃんと言ってやれよ、福引きで温泉旅行が当たったって‥‥】
「そうするとやっぱり、お兄ちゃんと二人っきりで‥‥。二人でスキーやって、二人
 でご飯食べて、それから‥‥ふたりで温泉に入って、それで‥‥それで‥‥二人で
 一緒に‥‥()」」
 【それはこの前聞いたって。】

『ただーいまぁー』
 唯が自室のベッドの上で、妄想を膨らませ始めて約10分、龍之介が帰宅する。
「あ、お兄ちゃんが帰ってきた。」
 慌てて階段を駆け下りる唯。
「お兄ちゃんお帰り。」
「おう、ちょうど良かった。俺の旅行鞄はどこだっけ?」
「お、お兄ちゃん旅行に行ってくれるの?」
 唯の目が輝く。
 【可哀想だが、何か大きな勘違いをしているようだ。】
「何だよ、俺が此処にいるとまずいのか?」
「そんなこと言ってないよ。でもどうして福引きで温泉旅行が当たったって知ってる
 の?」
「へー、温泉旅行が当たったんだ。いつからなんだ?」
「29日から3日間。ねぇ、いいでしょ? お母さん仕事で忙しいから2人っきりだ
 よ。」
  ポッ と顔を赤らめ、唯が龍之介にすり寄る。
 【君も毒牙に掛かりたいのか?】
  が、唯の想いは、当の龍之介には伝わらなかったようで、
「あ、俺は28日から3日間、スキー旅行だから、駄目なんだ。」
  珍蘭軒の醤油ラーメンのスープよりもあっさりと唯に答える龍之介。
「え゛っ」
 その一言で唯の頭の中の妄想は、ガラガラと音を立てて崩れて行った。
「悪いな。で、俺の旅行鞄は?」
 たいして悪びれた風もなく、龍之介が唯に尋ねる。
 こうなると、『かわいさ余ってニクソン大統領』、いやいや『かわいさ余って憎さ
百倍』である。
 【龍之介が、かわいいか? と云う評価は別だけど】
「お兄ちゃん、旅行って誰と行くの?」
「誰って‥‥、あきらと洋(よう)‥‥よーし、一緒に行くかって事になってだな。」
 【苦しい】
「あきら君と‥‥誰?」
「あ、あきらと俺だよ。」
「あきら君とお兄ちゃんと、あとは‥‥誰?」
 【げに恐ろしきは女のカン、と云うより龍之介の挙動が不審過ぎるのか。】
「あのな、俺だって男同士で遊びに行くことぐらいあるぞ。」
「わかった、女の子は現地調達なんだ。」
「そんなことは神に誓ってない!」
 【誓う神がいない上に、現地調達する必要がないもんな。】
 じーっ‥‥。
 龍之介の目を真正面から見据える唯。
「な、何だよ。疑うのか?」
 【疑われる要素は、千と有るだろうに‥‥】
「まあ、いいか。で? 場所は?」
「冬至温泉だよ。」
「冬至温泉!?」
「なんだよ知っているのか?」
「う、ううん。なんでもない。唯、ちょっと友美ちゃんの所に行って来る。」
 パタパタとリビングを出ていく唯。
「あ、おい、鞄は何処だよ。」
「そこの戸棚の中。」
 振り返りもしないで唯は玄関を出て行く。
「なんだよ。変な奴だな。えーとかばん鞄っと‥‥あった! ってなんだこりゃ? 
 画板(がばん)じゃないか。」
 【ベタベタだな。】

          こうして新たな戦いの幕がやっと開いた

            ☆            ☆

「おはよう」「おはよー」
 八十八学園へと向かう通学路。いつものように生徒達の挨拶の声がそこかしこで聞
こえている。
 そんな中、篠原いずみは、ものすごい不安を抱いて歩いていた。
「多分‥‥いや、120% 龍之介が旅行に行くことは知れ渡っているだろうな。」
 もちろん知れ渡っているのは構わない。(知れ渡っていなければ、尚良いのだが。)
 問題は、龍之介が誰と行くかを公表していた場合である。
「あいつ無神経だからなぁ‥‥。唯や友美に喋って無ければ良いんだけど。」
 気が付くともう教室の扉の前である。
(はぁ‥‥)
 いずみは溜息を付くと、重々しくそれを開いた。

 面子は揃っていた。教室の一角から四人の女の子達が、自分に視線を集中させてい
る。
 水野友美、舞島可憐、加藤みのりそして杉本桜子。
(ぐびっ)
 思わず息を飲む。四人の視線が、某(なにがし)かのオーラを発散させているよう
に思えたのだ。
「お、おはよう。」
 努めて明るく声をかけたものの、四人の表情は変わらない。
 その表情を全く変えない友美が、「おいでおいで」と無言でいずみを手招きする。
(も、もしかしてバレてる?)
 考えてみれば、情報が漏れるのは龍之介からだけでは無い。あきらや洋子から漏れ
たと云うことも考えられるのだ。
 それでもまだ断定するには早すぎる。
「どうしたんだ四人とも? 深刻な顔しちゃってさ。」
 近寄って、四人の顔を順に見回す。最初に口を開いたのは可憐だった。
「知っている事を洗いざらい喋って貰おうかな。」
(うわぁ――――――!)
 頭を抱え込んでしまいたい衝動を必死に押さえる。
「し、知っている事って?」
(えーい、こうなったら徹底的にとぼけてやる。神様仏様大仏様にキリスト様、いず
 みを守って下さい。)
 【信じる者は(足下を)すくわれる?】
「龍之介君が旅行に行くことを知っているでしょう?」
 その一言で取り敢えず安堵するいずみ。
「ああ、そのことなら知ってるよ。あきらと二人だけでなんか相談していたな。」
「そこよ!」 
「あの龍之介さんが、男の子同士だけで旅行に行くと思いますか?」
 桜子とみのりが、機関銃のようにまくし立てる。と、そこで一瞬の静寂が生まれ、
四人の視線が再びいずみに注がれる。
「いずみ‥‥誘われてない? 龍之介君に‥‥。」
「誘われたよ。」
 あっさりと言ってのけるいずみ。
(断ったけど。)そう続けようとしたのだが、
「ぬぅわんですってぇっ!」
 首を締め上げるかねない勢いで友美が、いや桜子もいずみに詰め寄る。何故本当に
首を締め上げなかったかと言えば、既に可憐が締め上げていたからだ。
「ばっばか! 離せ可憐。」
「このまま気絶させて香港に売り飛ばしちゃおうかしら。」
 【おいおい。】
「く、苦しい。話を聞けって。誘われたのは確かだけど、こ、断ったよ。」
「本当? 嘘だったら承知しないわよ。」
 【首を締め上げといて、これ以上何をやるというの?】
「本当だって。」
 それを聞いて、ようやく可憐はいずみの首にかけていた力を緩めた。
「大体友美は知ってるだろ。私が断ったから友美にお鉢が回ったんだぞ。」
 締められた首を撫でながら友美に訴える。
「あら、そうなの? てっきり一番最初に誘ってくれたんだと思ったのに‥‥。」
「あら? 友美さん、誘われたんですか?」
「え? ええ、まあ。」
「良く誘いにのらなかったわね。」
「あ、当たり前ぢゃない。みんなを裏切るなんて事を私が出来ると思う?」
 【そうは言っても、この中でそれを信じる人間は一人もいなかったりする。】
「こほん!」
 しれっとした雰囲気を軽い咳払いで払い、
「で、いずみちゃん、龍之介君が誰と旅行に行くか聞いてない?」
「うーん。私が断ったから友美を誘ったんだろ? その後は、『最終的には唯がいる
 から』とか何とかブツブツ言っていたから、私は付き合いきれ無くなって、さっさ
 と帰ったよ。」 
「そう言えば、いずみはなんで断ったの?」
 不思議そうな顔をして桜子が尋ねる。
「だって私の家厳しいんだもん。外泊なんか出来っこないし、なによりスキー場で
 『なんぱ』しまくるあいつを見るのが腹立たしい‥‥。」
「ふーん。わかるような気がする。」
 納得する桜子。
「と、言う事は‥‥」
 友美が三人(可憐、みのり、桜子)の顔を順に見回し、
「あなた達のうちの、誰かが誘われる可能性があるわけね。‥‥わかっているとは思
 うけど、抜け駆けは無しよ。」
「友美ぃ、水を差すようで悪いけど、どうやってそれを確かめるんだ? まさかつい
 ていくわけじゃないだろ?」
 追求の矛先がそれたことにより、余裕の出来たいずみが友美に質す。余裕に加えて、
優越感もあったのだろう。だが‥‥
「まさにその通りよ、いずみちゃん。唯ちゃんが商店街の福引きで、冬至温泉二泊三
 日を当てたの。」
 その瞬間、いずみの中で何かが崩れた。

         ☆以下、崩れた妄想

その1:
「龍之介、これ」
「なんだ? 缶コーヒーじゃないか。」
「うん。カイロの代わりだよ。‥‥リフトに乗りながら一緒に飲もうと思って。」
「へー、 いずみ って意外と気が利くんだな。」
「意外は余計だよ。」

その2:
「おいしー。ここの旅館の料理って凄く美味しいよ。」
「うん、確かに‥‥」
「わたしもこれくらい美味しく作れればなぁ。」
「なんだ、 いずみ は料理が苦手なのか?」
「苦手って訳じゃないけど、ここまで美味しくは出来ないよ。」
「じゃあ、もっと頑張ればいいさ。そしたら食わせてくれ。」
「どうせまずいって言うくせに。」
「そんな事はないさ。好きな女の子が作ってくれた物ならそんなことは言わないよ。」
「え?」
「あ、いや、何でもない。」
「龍之介‥‥」

その3:
「こ、恐いよ、龍之介。」
「大丈夫、優しくするから。」
「初めてなんだから‥‥龍之介は経験豊富だろうけどさ。」
「ばか。俺だって初めてだよ。」
「うそ。」
「ホントだって。わからないか? 震えるくらい緊張してるんだぞ。」
「ホントだ。‥‥信じるよ。龍之介。」
「そうか。じゃあ‥‥するぞ?」
「‥‥きゃうっ‥‥あっ‥‥くぅ、あぅ@^R‥そ、そんな事しちゃ‥‥あっぁぁん!」

         ☆妄想終わり

 【ん? ああ、終わったの? じゃあ先に進めるとするか。どーでもいいが、
  唯の妄想より、具体的な上に過激だな。】

「四名様までご招待だそうよ。つまり、抜け駆けしてもすぐばれるって訳。そう云う
 訳だから、龍之介君に誘われたらちゃんと自己申告してね。」
 真っ白になったいずみを放って、会話は続く。
「その四人って誰が行くの?」
「私と唯ちゃんは当然として‥‥。」
 【何故そこで友美が当然になるのかがわからないんだけど‥‥】
「ちょっと待って、それ同じ日なの?」
「残念だけど1日ずれるの。29日から31日までの2泊3日になるわ。」
「ごめ〜ん。私、年末はどうしても外せないドラマ撮りがあって、ダメなの‥‥。」
「あら、いつもは『龍之介君の為だったら芸能界を捨てる覚悟がある』なんて言って
 なかった?」
「それはそうだけど‥‥、今回はちょっと事情が違うのよ。共演がね、木○拓哉さん
 なの。」
 【可憐ちゃんって結構ミーハーなのね。】
「えーっ! 木村○哉ってあの『きむた○』?」  
  三人が同時に叫ぶ。
 【君らもか】
「いいなぁ。」
「私、芸能界のことは良くわかりませんが、その人なら知ってます。」
「でも、龍之介君の方がかっこいいけど‥‥」
「それは言えてるわ。」
 桜子の言葉に友美が応え、更にみのりが、ウンウンと頷く。
 【りゅ、龍之介ってそれほどまでにかっこいいのか?】
「でも、それ以上に三連続キャンセルは信用にも関わるし‥‥」
 【普通一回でもやれば拙いんじゃあ‥‥】
「そう云うわけで、ごめんなさい。あ、一応言って置くけど、龍之介君への愛が薄れ
 たって訳じゃないからね。」
「別にいいですよ。確率が上がるわけですから。で、どうやって決めます? 残り枠
 二人を、私と杉本さんと篠原さんで‥‥篠原さん?」
 焦点が合っていないいずみの目を、みのりが不審そうに覗き込む。
「いずみちゃん、どうしたの?」
 友美が目の前で、手をひらひらさせる。
「え? ああ、何でもない。」
 ようやく我に返る いずみ。
「大丈夫? いずみ。顔が悪いみたいだけど?」
 【失礼だぞ、桜子ちゃん。それを言うなら顔色だ。それに顔色の悪さなら君だって
  良くは無い。】
 だが、いずみにはそれに突っ込みを入れる程の気力もなく、大きく溜息をつくだけ
だった。
「そんなんで、旅行大丈夫?」
「無理しない方がいいんじゃないですか?」
 もう一人脱落すれば、何の苦もなく旅行に行けるとあって、桜子とみのりがここぞ
とばかりに詰め寄る。
「ほらほら、いずみって射手座でしょ?『29日は今年最後のアンラッキーディ。特
 に旅行は凶、家で嵐が過ぎるのを待ちましょう。』ですって。」
 桜子が持っていた雑誌の占い欄を指差し、いずみに突きつける。
「29日? 28日じゃないのか?」
 友美の顔を見る。友美は『聞いてなかったの?』と言うような顔で、
「29日の午前八時に八十八駅を出発予定だから、七時半には集合できるようにね。」

 ここでいずみは決断を迫られた。つまり‥‥
 龍之介の誘いを断り、唯や友美と共に(恐らく自分の代わりになるであろう)女の
子を邪魔するか、28日1日を龍之介に(身も心も)捧げ、友人を裏切るか。
 一瞬考え込み、目の前に広げられた桜子の雑誌に目を落とす。
『28日:今年最後にして、最大のラッキーディ。思い人と結ばれる可能性 大。』

 いずみが決断を下すのに、一秒もいらなかった。

                  ☆

「要は28日の夜に事が成ってしまえばいいんだよな。」
 授業が始まっても、考えるのは旅行のことである。
「いくらあいつらでも、そーゆー関係になった男と女を引き離すなんて、無粋な真似
 はしないだろう。」
  【それは考えが甘いんでない? 誰が言ったか知らないが、男は風呂に入れば、キ
  レイな身体になれるんだから‥‥。】
「とにかく、28日の夜に強行突破してしまえば、晴れて龍之介と恋人同士になれる
 んだ。なんとかこのチャンスをモノにしないと‥‥」
 【強行突破をするのは龍之介で、突破されるのがいずみの方じゃないの? 何処を
  どう突破されるのかは、読み手の皆様の想像にお任せするけど‥‥】
「しかし問題は山積みだよなぁ、親になんて言おう。普通は気心の知れた友達にアリ
 バイ工作を頼むんだろうけど‥‥友達ねぇ。」
 頭に浮かんでくるのは、おなじみの顔だけである。このメンバーにアリバイ工作を
頼んだ日には、破壊工作に成りかねない。
 いずみは机の上に突っ伏し、頭を抱えた。
「なんてこった、私にはアリバイ工作を頼める友達すらいないのか。」
 【『友達』と書いて『らいばる』と読む。】
「どーしよ。弓道部の先輩にでも頼もうか? でも相手が誰だか聞かれるだろうなぁ。
 そこから友美達にバレたら目も当てられない。」
 【噂が広まるなんて『あっ』と云う間だからな。】
「あーあ。私のことを理解してくれて、口が堅くて、出来ればこの学園の人間じゃな
 い友達かぁ。そんな都合のいい人間は‥‥」
 その時いずみの脳裏に一人の人物が浮かんだ。
「‥‥いた、一人だけ。そうだよ、あいつがいるじゃないか。幼稚園で『一生友達で
 いようね。』『困ったときがあったら助け合おうね。』と誓い合った我が親友。」
 【あー聞きたくない聞きたくない。】
「えーと、あいつの電話番号は‥‥と。」
 授業中だというのに、手帳の住所録を捲り始める。
「えー、春川春川 汐美‥‥っと。」
 【それは、kuropaさんの許可を取ってからにしてくれい。】

            ☆            ☆

 ‥‥で、放課後。公園脇にある、とある飲食店。
 かららん!
 髪に結ばれたリボンを揺らしながら、女の子が店内に入ってくる。
「ごめん。遅くなっちゃった。あれ? いずみちゃんと可憐ちゃんは?」
 非常に珍しい光景(友美と桜子、みのりのスリーショットを想像しましょう。)に
戸惑う唯。ちなみにみのりはひろこの格好をしている。(ややこしい)
「可憐ちゃんは仕事が忙しくて駄目だって。いずみちゃんはお家の事情で行けないそ
 うよ。」
「ふーん。それでみのりちゃんと桜子ちゃんが行くんだ。」
「昨日の敵は今日の友ってことでよろしくね。」
 にっこりと桜子が微笑む。
 【今日の友は明日の敵。】  

「あっそうそう。今日福引き会場に行って来たんだけど‥‥」
「何かわかった?」
「うん。やっぱりあきら君も福引きで当てたみたい。係員の人が覚えてたよ。」
「この季節に柔道着は珍しいですからね。」
 【みのりちゃん、季節の問題じゃないよ。】
「となるとやっぱり相手はこっちで探すのかしら?」
 友美が思案気に呟く。
「あ、私の方も収穫がありました。一緒に行く女の子の名前がわかりましたよ。」
「えっ本当? みのりさん」
「一体どうやって‥‥」
「慌てないで下さい。女の子と言っても川尻君の相手ですから。」
「それにしたって凄いわ。私あきら君に聞いたけど教えてくれなかったもの。」
「私も‥‥」
「きっと聞き方が悪かったんですよ。」
「みのりちゃん、どうやって聞いたの?」
「はい。一本背負いで三度投げ飛ばしたら、丁寧に教えてくれました。」
 【へっ? 確かあきらって全国レベルの強さじゃあ‥‥もしかしてみのりちゃんの
  爺様って、猪熊‥‥J/! 親父さんが失踪しているってのも、もしかして‥‥】
「そ、それで、その女の子って?」
「同じクラスの南川洋子さんです。」
「へー、意外な組み合わせね。」
「同じ要領で、龍之介さんの相手も聞き出そうとしたんですけど、『当日のお楽しみ
 だ』って教えてくれなかったそうです。」
「本当かしら?」
「ええ、多分。それ聞き出すのに、もう二度程投げ飛ばしましたから。」

                  ☆

 その頃、八十八学園の柔道場から医務室へと続く廊下では‥‥
「あきらぁ、しっかりしろ! 誰にやられたんだ!」
 白目を剥いたあきらが、担架に乗せられ、運ばれていた。

                  ☆

「洋子ちゃんなら大丈夫だよね。」
 唯が安心したように同意を求める。
「断定は出来ないけどね。明日にでもそれとなく探りを入れてみましょう。」
「そうなると当面の問題は、龍之介君の相手ね。」
「どうだった? お兄ちゃんから今日なにかそれらしいこと言われなかった。」
「全然。」 
「旅行の『り』の字も出ませんでしたよ。」
 桜子とみのりが同時に首を振る。
「私もずっと龍之介君のこと見張っていたけど、可憐ちゃんも誘わなかったみたい。」
 【友美の愛は、日本海溝よりも深いな。‥‥恐いけど。】
「じゃあ今の所、誰もお兄ちゃんに誘われてないんだ。」
 通う学校が違う為、一番情報に疎い唯の意見。
「知らないんですか? 友美さんと篠原さんは誘われたんですよ。」
「と、友美ちゃん、誘われたの? 昨日そんなこと一言も言わなかったじゃない。」
「あら、言ってなかった? でも関係ないでしょ、どうせ断っちゃったんだから。」
「本当に?」
「本当よ。私が唯ちゃんに嘘言ったことある?」
(星の数ほど)という言葉を何とか飲み込む唯。
「じゃあ、きっともう相手は決まってるよ。」
「どうして?」
「だって、昨日家に帰ってきた時点で相手が決まっていなかったら、唯を誘わないわ
 けないもん。」
 自信たっぷりに言い切る‥‥が、
「そうかしら? 眼中に無かっただけじゃない?」
「‥‥桜子ちゃん、唯になんか恨みがあるの?」
「たっくさん。」
 ブスッとした唯に向かって、桜子がにっこり微笑んで見せる。
(『Lady Generation1』参照)
 【それでも、デートが出来ただけましだと思う。】
(『Lady Generation2』参照)

「まあ、鳴沢さんが誘われる誘われないはともかくとして、相手が決まっているとい
 うのは考えられますね。現に私や、杉本さんも誘われていないんですから。
 若しくは‥‥」
「誘う相手の目星がついたか‥‥ね。」
 さすが八十八学園の1・2コンビ。
 【Zekeの設定では、みのりちゃんは特待生なのだ。】
「じゃあ、街中でひっかけた女の子っていうのは除外しちゃってもいいのかしら?」
「なんぱした女の子をいきなり泊まりがけの旅行には誘うと思います?」
 【龍之介ならやりかねない。】
「大体絞られてきたわね。ある程度知り合いで、宿泊旅行を誘える私たち以外の女の
 子って云うと‥‥。」

「おまたせー。ミックス二つに、ホット三つ、それとミルクティー。‥‥なに? 私
 の顔になんかついてる。」
 四人の視線を一身に浴び、思わず後ずさる愛衣(めい)。
 【あああ‥‥シリアス系のオリジナルキャラがこんな所に‥‥】
「一番可能性が有りそうね。」
「唯もそう思う。」
「何? 何の話?」
 突然ひそひそと自分のことを言われたら、誰だって気になるだろう。
「叶(かのう)先輩の年末の予定ってどうなってるのかな、と思って。」
「年末? ずっとここでバイトだけど‥‥そんなこと聞いてどうするの?」
「愛衣さんって素敵だから、彼氏がスキー旅行に誘ったりなんかしてるかな、なんて
 思ったんだけど‥‥。」
「‥‥それって嫌味? そう言うあなた達はどうなの?」
「今、予定立ててるところです。」
「ふーん、そうなんだ。やっぱり‥‥」 

  かららん!

『スキーなの?』と聞こうとしたとき、カウベルが来客を告げた。
「いらっしゃいませ。」
 それに応対すべく、愛衣が四人に背を向ける。が、二・三歩行ったところで振り返
ると、
「それって‥‥‥龍之介も一緒なの?」
 さも『気になりませんよ』といった風に聞くのだが‥‥
 【四人から見れば、『気になってしょうがない』って行動に見えるだろう。】
「‥‥ええ。もう今から楽しみで。」
 一瞬逡巡したが、それを気取られる寸前のタイミングで友美が答える。
「ふーん。‥‥あ、こちらのテーブルへどうぞ。」
 愛衣は今度こそ背を向け、カウンターの中に戻っていった。

「どう思う?」
 テーブルの中央に額を寄せ合い、友美が意見を求める。
「今の時点では誘われて無いみたいね。」
「ええ、不機嫌そうな顔してましたし‥‥。」
「でも、お兄ちゃんが一緒に行くなんて嘘言っちゃって良かったのかな?」
「あら、嘘じゃないわ。だって1日ズレるとは言え、同じ旅館に泊まるんですもの。」
 【いや、まだ同じ旅館に泊まれるとは書いてないんだが‥‥ま、そのつもりだから
  いいけど。】
「それにああ言っておけば、性格上誘われても素直に応じないと思うわ。」
 【さすが友美、策士だな。‥‥つまり愛衣はそーゆー性格なのだ。】

 かららん!

 またもカウベルが来客を告げる。
「いらっ‥‥」
 愛衣の言葉はそこで途切れた。
 その来客者の声が、被さったからと言うのもあるが‥‥
「やあ、桜子ちゃんにみのりちゃん、何やってんの? なんだ友美も一緒か。」
 【これでは出迎えたく無くなるだろう。】
 そう! 御都合主義宜しく龍之介の登場である。
「あ、龍之介くん(さん)」
「珍しいな。なんで三人がこんな所で一緒に居るんだ?」
(ぎゅう)
 怒りと全体重を込めた踵が龍之介の足に甲を踏みつける。
「いてっ! 何だよ唯。」
 【そりゃ怒るわな。】
「嘘ついた罰だよ。」
「な、なんだよ嘘って。」
「昨日 あきら君 と二人だけで旅行に行くって言っていたのに、友美ちゃんを誘った
 でしょ。」
「さ、誘っただけじゃないか。」
 【万死に値する。】
「私の前に、いずみちゃんも誘ったらしいわね。」
「だって、目の前にいたから‥‥誘わなかったら失礼かな? と思ったんだよ。」
 【それは失礼かも知れないけど、断られた直後に目の前で他の女の子を誘う方が、
  もっと失礼だぞ。】
「えっ、あの‥‥じゃあ、私が目の前にいたら、やっぱり誘ってくれました?」
 みのりが先程から気になっていた疑問をぶつける。
「もちろんさ。」
「桜子は?」
「え? 桜子ちゃんが一緒に行ってくれるの? うれしいなあ。」
 【結局、目の前にいれば誰でも良かったわけだ。】
「ね、お兄ちゃん。唯は? 唯が目の前にいたらやっぱり誘ってくれた?」
 自分を指差し、アピールする唯。当然みのりや桜子と同じ様な答えを期待したのだ
が‥‥
「‥‥まあ、誰も一緒に行ってくれなかったら考えるけど‥‥」
(ぎゅう〜)  
  言い終わらないうちに、龍之介の足へ再び怒りの鉄槌が下された。

            ☆            ☆

「なんか、腹が立つわね。」
 龍之介が這々(ほうほう)の体(てい)でカウンターの方へ逃げて行くと、友美が
切り出した。
「えっ、なんで?」
「そうね。結局唯ちゃんは特別扱いって事じゃない。」
 桜子も友美に同調する。
「そ、そうかな? あはは。」 
 さっきまでの不機嫌さは何処へやら、ライバル(恋敵)達に「特別扱いされている」
と言われれば、悪い気はしない。
「なにヘラヘラしてるのよ。あー益々腹が立つ!」
 そう言うと、桜子は皿に載せられた唯の分のピザを横取りする。
「あ、それ唯の分‥‥」
 『のピザ』と言おうとしたのだが、鋭い視線に射すくめられ、言葉を飲み込む。
「なに? 私お腹が空くと怒りっぽくなるんだけど。」
 【それだけじゃあるまい。】
 見かねたみのりが二人の間に割って入る。
「杉本さん、大人げないですよ。はい、鳴沢さん良かったらどうぞ。」
 自分の分のピザを一切れ唯に差し出す。
「ありがとう。みのりちゃんて優しいんだね。」
 恭(うやうや)しく差し出されたピザを受け取るが、その表面はタバスコで真っ赤
になっていたりする。
「あ、あの‥‥みのりちゃん?」
 唯がみのりの皿を覗き込むが、もちろんみのりの手元にあるピザには、真っ赤にな
るほどタバスコはかけられていない。
「なんですか?」
 にっこりとみのりは笑ってみせるが、その目は笑っていなかった。
 【普段大人しい女の子は、怒ると恐いんだよねぇ】

                  ☆

 一方こちらは龍之介。
「いててて、唯の奴思い切り踏みつけやがって‥‥。」
 【それは自業自得というモノだろう。】
「楽しそうね。」
 きゅこきゅことグラスを拭きながら愛衣が話しかける。が‥‥、
「しっかし、みのりちゃんや桜子ちゃんが誘って欲しかったとは‥‥俺としたことが
 早まったかも知れない。」
 【いずみに殺されるぞ。】
「スキー旅行に行くんだって?」
「でもそうすると今度は、みのりちゃんか桜子ちゃんかで迷うことになるからなぁ。」
 【聞いちゃいない。】
「‥‥‥‥。」
「まあ、なんだな。もてる男ってのも、つらいもんがあるね。」
『ふっ』と髪をかき上げると、怒りに満ちた視線とぶつかった。
「どしたの? 恐い顔しちゃって。」
 【誰のせいだ。】
 普段なら「悪かったね、恐い顔で。」と来るのだが、
「ご注文は?」
 事務的に応じられてしまった。
「えと‥‥コーヒー、お願いできますでしょうか。」
 経験的にそれが危険な兆候とわかっているので、下手に出て対応する。
「コーヒー1つですね。少々お待ち下さい。」
「あの‥‥出来ればスマイルも欲しいんだけど‥‥」
「お客様、ここはファーストフード店では御座いません。」
 相も変わらず、事務的なお言葉。龍之介の背筋が凍る。
 【だからそれは自業自得だって。でも、恐すぎる。】

 待つこと5分‥‥
「お待たせいたしました。」
 コトリ、と置かれたグラスにはアイスコーヒーがなみなみと注(つ)がれていた。
 もちろん、文句一つ言わずに飲み干すことが、龍之介に課せられた使命‥‥と言う
よりは義務だった。

            ☆            ☆

 さてさて、そんなこんなで日にちは過ぎて‥‥

「ふわぁ〜」
 大きく伸びをして、篠原いずみはベッドの上に上半身を起こした。
 誰がなんと言おうと今日は12月の28日。待ちに待った旅行の当日だ。

「んー、いい天気。絶好の旅行日和だな。」
 カーテンを開け、窓から差し込む光に安堵するいずみ。冬特有の抜けるような青空
が広がっている。
 時計に目をやると‥‥10時12分‥‥な訳が無く、
 【あれはいい手だったよなー、連載をあっさり終わらせる事が出来たし‥‥。】
 7時10分前を指していた。
 今日、彼女は親友である同級生達を出し抜き、そして古くからの親友すら出汁に使
い、意中の男の子と旅行に行くのだ。
 そう、8時ちょうどのバスで‥‥
 【はぁちじちょーどの ぅあずすわぁ○ごうどぅぇ〜 あずさキック!】

            ☆            ☆

 八十八駅22時45分(グリニッジ標準時)現地時間7時45分
「おっはよー。」
 足取りも軽やかにやってきたのは、多分このシリーズの主人公。
「珍しいな、龍之介がこんなに余裕をもって来るなんて‥‥」
「そうでも無いぞ、本当ならもう30分ほど早く着く予定だったんだけど、部屋から
 玄関に行くまでブービートラップが3つ仕掛けてあったんだ。全く誰がそんな事し
 たんだか‥‥」
 【唯と友美だろ。】
「ところで龍之介は誰を誘ったんだ?」
 シリアス、パロディを通じて初登場の南川 洋子の発言である。
「まあ、慌てるなよ。あと10分もすれば解るから。」
「ふーん、私には大体誰が来るか察しはつくけどな。」

 ところが10分経ってもいずみは来ない。
「おい、本当に来るのか? 後5分も無いぞ。」
「大丈夫だって、万が一の時は置いて行っちまってもいいし‥‥」
「えー! 私、嫌だよ。女1人なんて‥‥。」
 【大丈夫だ、君なら例え龍之介とあきらが襲いかかってきても、撃退できる。】
「安心しろ、女の子の1人くらい俺が現地調達してやるぜ。何ならバスの中で調達し
 ても良いし‥‥」
 どげしっ!
 そう言った龍之介の脚に鋭い蹴りが入る。振り返った龍之介の目に入ったのは、大
きなサングラスに、野球帽を目深に被った小学生くらいの男の子。
「なんだよ、このガキ。」
「乗れ!」
「その声はいずみ? なんて格好してるんだ。」
「いいから乗れっ! 見つかるだろっ!」
「誰に?」
 【超絶におめでたい奴だな。】
 いずみはそれには答えず、龍之介をバスの中に押し込む。
 その後を怪訝な顔をした洋子とあきらが続く。

「ふぅー」
 座席に座り、いずみはようやっと帽子とサングラスを外した。
「お前、何だってそんな格好してるんだ?」
「え‥‥、えっと‥‥そう! 親に内緒で来ちゃったから、ばれないように変装して
 来たんだ。」
  【違うだろ、それもあるだろうけど本当の訳は‥‥言わないでもみんな解ってるか
  ‥‥ しかしそんなことを龍之介本人に言えるわけがない。】
「へぇ、大変だなぁ。」
「そうだよ。そんな大変な思いをしてまで旅行に来たかったんだからな。」
(龍之介と一緒だから‥‥)
 もちろんそんな想いが龍之介に通じるわけもなく、
「そんっなにしたかったんだ‥‥スキー。それとも温泉か?」
 【‥‥。】
 そんな二人の背後から、
「りゅ、龍之介、お前が誘ったってのは、いずみだったのか?」
 突如、洋子が身を乗り出してきた。なぜか顔がひきつっている。
「わはは、俺は意外性の男と呼ばれているんだ。」
「‥‥いいのか?」
「なにが?」
「いや、お前がいいって言うのなら、私はなにも言わないけど‥‥。怒ると恐いぞ。」
 【それは龍之介も知ってると思う。】
「大丈夫だ。俺が旅行に行くことは言ってないから‥‥」
 【尚、悪いんじゃ‥‥】
「でも‥‥私、教えちゃったぞ、宿泊先‥‥」
 瞬間、龍之介の顔が凍り付く。
「‥‥まあ、なるようになるだろ。」
 【いいよな、楽観主義ってのは。】

 エヴァには遠く及ばない謎と、様々な想いを乗せ、みさき巡りのバス走る。

                  ☆

 AA/‥‥%
 そのバスの上を一羽の鳥が旋回し、入梅興業ビルの影へと降り立つ。
 ケープを羽織った一人の少女が左手を掲げ、その鳥を迎え入れた。
「お帰り、たーぼ君。」
 言わずと知れた『鳥使い』杉本 桜子。
 AA/ AAA/‥‥
「うん、うん。‥‥帽子とサングラスで顔を隠していたですって? やるわね。私達
 の存在に気付いてるって事だわ。他には? 背が低くて胸もそんなに無かった? 
 ‥‥でも姫といい勝負? ‥‥たーぼ君、今日のおやつ抜き!」
 【心の中で話をするのはいいが、そんなことまで解るのか?】

            ☆            ☆

 そのころ龍之介の家では、破壊され尽くした廊下に、呆然と立ちつくす唯と友美の
姿があった。
「3つともひっかったみたいね。」
「まさか全部に引っかかるとは思わなかったわ。」
 どうやらトラップを外さずに、強行突破したらしい。
「でも、賢明な策ね。一個一個トラップを外してたら間に合わなかった筈よ。さすが
 龍之介君だわ。」
 【それ、絶対違うと思う。】
「靴がなかったから、生きて旅行には行ったみたいだね。」
 【どんな仕掛けをしたんだ君らは‥‥】

            ☆            ☆

 3時間後‥‥。一行は無事冬至温泉に辿り着いた。本当ならバスの中で色々あった
筈なのだが、そこは皆様のマシンに常駐してある筈の『同級生2』を起動して、旅行
に行っていただきたい。『至極のランナー』を歌うも歌わないもあなたの自由です。

「う〜、寒い!」
 龍之介が震えながらバスを降りる。
「情けないな〜、あきらを見ろ、こんな格好で行動しているんだぞ。」
「こいつと一緒にするな。俺は普通の人間なんだ。」
 【人間には違いないが、普通かどうかは明言を避けたい。】
「失礼な! こんなバリケードな人間をつかまえてなにを言う。」
 【まあ、確かにバリケードみたいな身体だが‥‥】
「あきら、親父ギャグをかましてないで、さっさと旅館に入ろうぜ。私は早くスキー
 がしたいんだ。」
 さりげなくユーモアセンスをアピールしたつもりのあきらだったが、洋子には効果
がなかったらしい。

「いらっしゃいませ。」
 旅館の中に入るとすぐに女将が出迎えてくれた。
「川尻様でございますね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
 先頭に立って歩き出す女将を見てあきらの頬が弛む。龍之介に至っては、心の中で、
ラッキーの頭に『超』までつけて、『超ラッキー』と叫んでいた。
 更に、
「あ、いらっしゃいませ〜。‥‥ね、お客さん達八十八町から来たんでしょ。
 いいなぁ〜、後で色々聞かせてね。」
 亜麻色の髪の毛を両側でお下げにし、どてらを着込んだ少女が駆け寄る。
「これ、久美子! お客様の前でなんですか!」
 【新規登場キャラ、3人。最早収拾がつかない。】
「あ、ごめんなさい。‥‥えと、ゆっくりしていって下さいね。」
 ちょこんと頭を下げ、走り去る久美子。それを見送る一同。
「あの‥‥今のは?」
 旅館に着いたばかりだというのに、不安な要素が続出し、気が気ではないいずみ。
「申し訳ありません。私の娘でして‥‥今日、八十八町からお客様が見えると知って
 から落ち着きが無くて。後で厳重に注意しておきますが、もし失礼があったら言っ
 て下さい。」
「へー、女将の娘さんなんだ。かわいいなー。」
 今度はラッキーの頭に『超絶』を着けて、『超絶ラッキー』と叫ぼうとした龍之介
だが、
「おい‥‥今、良からぬ事を考えなかったか?」
 勘が冴え渡るいずみに小声で釘を刺され、自粛する。
「恐れ入ります。‥‥こちらがお部屋の『グラジオラスの間』でございます。」
 【グ、グラジオラス?】
「ちなみに、お向かいの部屋は『ヒヤシンスの間』、お隣は『ひまわりの間』になっ
 ていますので、お間違えの無いように。」
 【絶っっ対に間違えないと思う。】

                    ☆

 部屋の中に荷物を置き、女将が入れてくれたお茶をすすり一服すると、早速洋子が
行動を起こした。
「よし! 早速滑りに行くか。」
「何だよ、もう行くのか? もう少し休んでいこうぜ。」
「なにじじ臭いこと言ってんだよ。私が何しにここに来たと思ってるんだ?」
「それなら何も俺を引っ張り回す事はないだろう?」
 面倒くさそうに備え付けの饅頭を頬張る龍之介。
「しょうがないなぁ、いずみはどうするんだ?」
「え? 私は‥‥龍之介と一緒にいるよ。」
「いいのか? こいつと一緒にいると、ここで寝る羽目になるぞ。」
「おい、いくら何でも3時間かけて昼寝に来るほど俺は酔狂じゃ無いぞ。」
「お前の場合それがあるから言ってるんだ。」
「‥‥くそう、そこまで言われて黙ってられるか! あきら、さっさと着替えてゲレ

 ンデへ行くぞ。」
 相変わらず柔道着を着込んだままのあきらを促すが‥‥
「ふっ、俺の準備はもう出来ているぞ。素人目には解らないだろうが、この柔道着は
 防寒仕様の柔道着なんだ。長野オリンピック委員会の公認も取ってあるぞ。まずこ
 の襟の部分だが‥‥」
 【冬季に柔道なんかやらないって‥‥】
 自慢気に防寒柔道着の説明をするあきらを後目に3人は身支度を整える。
「‥‥で、極めつけはここだ! この裏地に書かれた「防寒仕様」の4文字! これ
 がこの柔道着の防寒仕様たる証だ。」
「おーい、置いて行くぞ。」
 握り拳まで作って力説した割には、傍聴者はいなかったようだ。
 【個人的には面白いと思うんだが‥‥】

                  ☆

 ‥‥約5時間後。
「つ、つかれた‥‥。」
 部屋の真ん中で大の字になってひっくり返る龍之介とあきら。
「スキーなんて久しぶりだったからな。普段使わない筋肉を使うから余計に疲れるん
 だよな、きっと‥‥。」
 妙な言い訳でお互い慰め合う男どもとは対照的に洋子は、
「さーて、一風呂浴びて飯食ったら、また滑りに行くぞ。」
 スキーにしてもテニスにしても、出来る人間の体力というものは、無限に続くもの
らしい。
「ここの温泉露天風呂だってさ。」
「混浴か?」
「ちがうよっ!」
「なんだつまらん。俺達はもう暫くここにいるから、温泉でも何でも行って来い。」
「なさけないなぁ〜。」
 【全くだ。こんなんで夜の方、大丈夫なのか?】
「しょうがない。いずみ、こんな軟弱な男共は放っといて温泉に入りに行こうぜ。」
「ああ、そうだな。二人とも覗きなんかするなよ。」
 ひっくり返っている二人を見ればそんな体力は到底無いように見えるのだが、芝居
と言うことも考えられる。龍之介に至っては、這ってでも覗きをするように思えたの
だ。しかし‥‥
「ふん、幼児体型と筋肉質の裸なんぞ見ても面白くないぞ。」
 げしげしげし。
 【口は災いの素とは良く言ったもんだ。】
     
           ☆            ☆
 
「ふー、いい湯だった。」
「ああ、やっぱ露天風呂ってのは開放感があっていいよな。」
 部屋に入ると既に夕食の準備が出来ていた。
 【あれ? 読者サービスは?】
「おっ、やっと戻ってきたか。あんまり遅いから先に食っちまおうかと思ってたんだ。」
「俺なんかもう腹が減って死にそうだったんだぞ、早いとこ席に着いてくれ。」
 泣きそうな顔で訴えるあきらに苦笑しながらいずみと洋子はそれぞれの席に着く。
「でわ、一日目の無事終了を祝いまして‥‥」
 ジュース入りのコップを掲げ、龍之介が音頭をとる。
 【こーゆー所でこーゆー行動がとれるってのが龍之介の良いところだと思う。】
「かんぱーい。」
 四人の声が重なる。
 こうして一日目の夜は騒々しくも和やかに過ぎて行く‥‥。




 ‥‥訳がなかった。
 食事が終わり、膳がすべて下げられてから10分もしないうちに、洋子が立ち上が
る。
「よーし! ナイトスキーだ。」
「お前は化け物か?」
 龍之介の意見も尤もだが、好きな人間はいくらやっても飽きないのだという。
「誰もお前なんか誘っちゃいないよ。‥‥いずみ、逃げるな!」
「え、いや、その、ちょっとお手洗いに‥‥」
 しかし、明らかに逃げ腰である。それもその筈で、今ここでナイトスキーに行って
しまっては、何の為にここに来たか解らない。
 【え? スキーに来たんじゃ無かったのか?】
「そうかいそうかい。わかったよ、わかりましたよ。‥‥あきら!」
 最後の一人を睨み付ける。
「私を誘ったのは誰だ?」
 哀れな子羊は誰にも助けを求めることが出来なかった。

            ☆            ☆

「しかし、よく泊まりがけの旅行を許してくれたよなぁ。」
 洋子に引っ張られていくあきらを見送った龍之介が、隣に座るいずみを見下ろしな
がら切り出す。
「龍之介、人の話を全然聞いてなかっただろ。親には内緒で来たって言ったろ。」
「へ? そうだっけ。でも、そうすると今頃大騒ぎになっているんじゃないか、お前
 ん家。」
「はは。いくら何でも黙って家を出てきたわけじゃないよ。昔の‥‥今もだけど‥‥
 友達の所に遊びに行くって嘘ついてきたんだ。」
「へぇー、そんな友達がいるんだ。でもさ、いずみの両親の事だから、その友達の家
 に『お世話になってます』とか電話入れるんじゃないか?」
「うん。そう思って、その友達の一人暮らしのお兄さんの所に遊びに行くって事にし
 たんだ。」
「無茶するなぁ。じゃあその友達は今頃いずみの悪口言ってるぞ。」
 【実際の所、それは悪口などという生やさしいモノではなく、どちらかといえば恨
  みに近いモノがあった。】
「そんなこと無いだろ。お兄さんだっているんだし‥‥」
 【そのお兄さんが、スキー旅行に行ってしまったなどとは夢にも思わないいずみで
  あった。】
「‥‥でもさ、そんなに無理するくらいなら、断ってくれても良かったのに‥‥」
 その言葉にいずみの胸がキュッと締め付けられる。
「そんな事‥‥言わないでくれよ。私はこの旅行にどうしても来たかったんだから‥
 ‥、嬉しかったんだ、龍之介が誘ってくれた時‥‥」
「最初は断ったじゃないか?」
「だってあまりにも話が急だったし‥‥でも、龍之介が友美を誘ったのを見て、耐え
 られなかったんだ。私だって友美や唯に負けないくらい龍之介の事が‥‥」
「いずみ‥%?」
 潤んだ瞳を龍之介に向けるいずみに一瞬龍之介がたじろぐ。その見つめる瞳が徐々
に細くなって行き‥‥
 【ちょっと待て、展開が早過ぎるぞ。第一まだ布団が敷かれていない。
  ん‥‥? 布団?】

「失礼しまぁーす。お床作りに来ましたぁ。」
 向日葵のような笑顔を携え、旅館の娘久美子登場!
「あ、ご苦労さん。大変だね、えーと久美子ちゃんだっけ?」
 センチメートル単位の距離が、あっと言う間にメートル単位の距離になる。これが
『Lady Generation』の恐ろしさだ。
 【しかし、大概の『らぶこめ』漫画の王道でもある。】
「あれ? お二人だけなんですか‥‥どうしますお布団?」
「ああ、後の二人は夜通しでスキーをするって言ってたから、取り敢えず二つで良い
 よ。」
 【取り敢えずね‥‥】
「わかりました。」
 そう言って床を作り始める久美子だったが、二つの布団の距離が異様なほど開いて
いる。間に3つほど布団が敷けそうだ。
 【ブルータス、お前もか‥‥。】
「ず、随分と離したな。」
 いずみの頭に嫌な予感が漂う。
「そうかな? でも間違いがあるといけないから‥‥」
 【間違いね‥‥】
 で、やっぱり布団が敷き終わっても久美子は退室しなかった。
「ねえ、八十八町って如月町の隣なんでしょ。ちょっとで良いからお話聞きたいな。」
 ニコニコニコッと笑顔の周辺に向日葵の花を咲かせられては、断るモノも断れない。
  
                  ☆

 それから二時間、ちょっとのお話は、カラオケ大会へと移行していた。
「7番、龍之介『至極のランナー完結編』を歌います。」
「またかよ、もう聞き飽きたぞ。」
「じゃあ、完結編じゃなく、純愛編を‥‥」
「はあ、勝手にやってくれ‥‥。」
 本当なら今頃は‥‥などと埒もない事を考えてしまういずみ。友人を出し抜いた罰
が当たったのか、それとも友人を出汁に使ったのがいけなかったのか‥‥
 【そんな事より、明日の心配をした方がいいんじゃない?】
 しかし、天はまだいずみを見捨ててはいなかった。

 D^@D^@D^@/ 6^W/
「久美子! あなたなにやってるのっ!」
 血相を変えて女将である永島 佐知子が部屋に転がり込んで来る。
 【そりゃー、旅館の仕事もせんで、お客と一緒になってカラオケ大会開いてりゃ怒
  りたくもなるわな。】
「お客様、申し訳ありませんっ。この子には後でよおっく言い聞かせておきますので、
 ひらにご容赦を‥‥」
 部屋の畳に額を擦りつけんばかりに娘の頭を押しつける女将、
「え‥‥いや、久美子ちゃんのせいじゃないですよ。俺達が引き留めちゃって‥‥」
 そのあまりの剣幕に、自然と久美子をかばってしまう。
「そ、そうだよ、一曲歌いたいって言ったのこいつだし‥‥。」
 例え恋路を邪魔されたとはいえ、やはりいずみも久美子が哀れに見えたようだ。
 が、それでも佐知子は収まらない。
「いいえっ! お優しいお言葉は有り難いのですが、この子は将来この永島旅館を背
 負って立つ身、こう云うことは今からきっちりとしなくてはならないのです。
 ‥‥さっ、久美子。今から厨房に入って、大根のかつら剥き30本よ。」
 【板前にでもする気?】
「ごめんなさい」と頭を下げ、佐知子に促されて部屋を出て行く久美子。

「なんか可哀想だったな。」
「ああ、女将の娘って事でかなり縛られているみたいだな。でもまあ、女将の言いた
 い事も解るけどな。」
「なんだよそれ。」
「へ‥‥わかんないのお前? 一般論として男と女が旅行に来ていて、いつまでも旅
 館の人間が居座っていたら思慮が足りないと言われても仕方ないだろう?」
「あ‥‥。」
 何のことは無い、さっきまでいずみ本人が思ってた事である。しかし龍之介からそ
の言葉が出たとなると‥‥
「‥‥えーと、それじゃ女将から見ると、龍之介と私はその‥‥」
「あ、あくまで一般論だからな。」
 朴念仁の龍之介がどもった上に、顔に朱が差している。
 【いずみチャーンス!】 
「龍之介‥‥と私じゃ‥‥一般的じゃないか‥‥な?」
 もじもじと俯きながら、しかし言いたいことはしっかりと伝えている。
「な、なに言ってんだ‥‥もう寝ようぜ。」
 ついっと龍之介はいずみに背を向けてしまう。しかし、もういずみに後は無いのだ。
 向けられた背に迷わず飛び込んでいく。
「い、いずみ?!」
「寝るって‥‥どっちの布団で?」
 【この攻撃を受けて自制心が保てる人間は居まい。ましてや龍之介である。】
「いずみ‥‥」
 龍之介が、自分の胸に回されたいずみの手をそっと握る。背中のいずみがビクッと
震えるのがわかった。
 ゆっくりと振り向き、自分の方を見上げるようにして見ているいずみに、顔を寄せ
ていく‥‥。
「瞳‥‥閉じて‥‥」
 呪文のように呟く龍之介に従い、いずみの大きな瞳が徐々に瞼に隠されて‥‥

 <^,] <^,] <^,] <^,] <^,6<^,6<^,]<^,6<^,]<^,]<^,]‥‥
 突如、ファンファーレが鳴り出す。いや、ファンファーレではなかった。
「いけね、カラオケのプログラム消すの忘れてた。」
 【お約束ぅ〜】
「‥‥ドジ」
「はは‥‥いずみ、歌えば? 歌ってる間に俺は布団を片付けちゃうからさ。」
「え‥‥?」
「ひとつで十分なんだろ? それとも‥‥このままにして置くか?」
 別に二つ敷いてあっても一向に構わないのだが、そこはそれ。イエスと言ったら、
龍之介に抱かれる事を拒絶しているように取られてしまうかもしれない。
 頬を赤らめながら、無言で首を左右に振るいずみ。
「それじゃ」と龍之介が布団をたたみ始める。
 いずみはのたのたとカラオケセットに歩み寄り、思わず苦笑した。
「よりによって可憐の歌かよ‥‥まったく、最後まで邪魔してくれるよな。」
 流れていた曲は可憐の最新シングルらしく、いずみ自身は初めて聞く曲だ。
 何気にモニターを見ていると、イントロ部が終わったのか歌詞が青色で表示され始
める。そして‥‥
 ‥‥聞こえる筈のない歌詩が聞こえてきた!

 それも! 聞き覚えがある声で‥‥

 空耳などでは無い。
 現実に青色の歌詞が白色に変わっている所が、歌として聞こえているのだ。

 そして‥‥その曲の最も盛り上がる場所、サビの部分で部屋の入り口の襖(ふすま)
がスラッと開き‥‥

   舞 島 可 憐  が現れた。

                        『Lady Generation3』前編 了




後書き:

 どーも。毎度お読み頂きありがとうございます。
 さて後編ですが、某パティオ内では既に完結しています。しかしながらその内容は、
その某パティオの内輪ネタ、『FF7』ネタ、不適切な表現、更には作者のバカが散乱
しており、とても他人様のHPにお出し出来るような物ではありません。
 そこで全面改定を行っております。(何時になるかはわかりませんが‥‥)

 もし、待ちきれないという奇特な方がいらっしゃいましたら、パティオ内での後編を
お届けしますので、メールにて『よこせ』とご指示下さい。
 一両日中にはバカSSが届きます(爆)

 それでわ、ちゃおちゃお〜



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