『鏡の中のアクトレス』
The Actress In The Mirror

(10 Years Episode 2)

構想・打鍵:Zeke

 この作品はフィクションであり(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を使用しております。
 尚、ここに登場する、人物、名称、土地、出来事等は実際に存在するものではありません。




 暑い〜、いかにも夏って暑さだよ、これは。わっ、陽炎で50M先の家が揺れ
てる。7月も半ば過ぎだから当たり前だよね。それにこの暑さのおかげで夏休み
があるんだから感謝してもいいくらいかな。
 でも学校が終わる時間にこの暑さはちょっとひどいかも・・・。 
 それにしてもこう暑いと涼しい場所で冷たい物が飲みたくなるよ・・・そう
なるとやっぱりあそこだね。

喫茶『憩』

 カランカラン・・・
  カウベルの音と共にひんやりした空気が身体を覆う。うーん、涼しい。
「ただいまぁ。」
「いらっしゃいま・・・、唯、お店から入ってきちゃダメって言ったでしょ。」
「いいの、今日はお客さんなんだから。アイスコーヒーちょうだい。」

 そう、ここの喫茶店のマスター(?)は女性でしかも唯のお母さんだったりする。
 土曜日の午後とか日曜日に唯も手伝う事があるけど基本的には一人で切り盛りして
いて、その上家事もきっちりこなしているの。
 う〜ん、お母さんって凄い!

「お客様、ムダ遣いはいけませんわ。」
「えー、娘からお金を取る気なの?」
「今はお客さんなんでしょ。」

 うー、お母さんのケチ、いいもん、自分でやるから。
 鞄をスツールの上に置きカウンターに潜り込む。えーと、グラスはこれ、ガムシロッ
プはここ、ミルクは冷蔵庫の中で豆はこっち・・・っと。
 休みの日は手伝っているから勝手知るってやつだね。

「龍之介君は?」

 コーヒー豆を挽き終わると同時にお母さんが聞いてくる。龍之介君は唯のお兄ちゃ
んなんだけど血のつながりは全然無くて年も同い年。
 えっ、じゃあ何で「お兄ちゃん」なんて呼んでいるかって? 
 確か唯の方から「お兄ちゃんになって」ってお願いしたんだと思う。 

「お兄ちゃん? 帰り際に友美ちゃんと一緒に陸上部に捕まってたよ。」
「あら、また? そんなに熱心に誘われているなら入部してあげればいいのに。」
「遊ぶ時間が無くなるから嫌なんだって。・・・お母さん氷が少ないよ。」
「午前中にたくさん使ったからね、補充しといて。遊ぶ時間ね、龍之介君らしいわ。」

  期末テストの終わった後に行われた陸上記録会、その最後にしてもっとも盛り上
がる全クラス対抗リレーの決勝でお兄ちゃん達の1年C組は2位になったんだ。
 それもただ2位を取っただけじゃなくて第三走者の友美ちゃんとアンカーのお兄ちゃ
んだけで、6クラス中(午前中に学年ごとに予選があって、上位2クラスが決勝進出
できる)6位だったのを2位にしちゃったんだから。
 陸上部からお声が掛かるのも当然だね。

 カランカラン・・・
「ふぇ〜、あちぃ〜。」
「いらっ・・・龍之介君お店から入ってきちゃいけ・・・あら、友美ちゃんも一緒な
 の。」

 噂をすればだね、今入ってきたのが唯のお兄ちゃんで、綾瀬 龍之介君。

「こんにちは。美佐子さん。」
 で、一緒に入ってきたのがこの家の隣に住む水野 友美ちゃん、お兄ちゃんと唯の
幼なじみ。
 最近髪を伸ばし始めたらしくて今、肩に触れる位の長さになっている。
「二人ともなにか飲む?」
「あっ、俺このアイスコーヒーでいいや。友美は?」

 って、それ唯が作ったアイスコーヒー! あーっ、一口飲んじゃった!

「お兄ちゃん!」
「なんだ唯、帰ってたのか。」
「それ、唯が飲む為に自分で入れたんだよ。」
「へー、どおりで美味しいと思った。」

(えっ、そ、そうかな? それ全部飲んじゃっていいよ。唯の分はまた作るから。)

 ・・・って答えた事が前にも2度程あった。もう騙されないもん。
 仏の顔も三度までだよ。

「お母さん、お兄ちゃんの奢りでストロベリーパフェ1コ。」
「何で俺の奢りなんだよ。」
「決まってるよ、唯のアイスコーヒー飲んじゃったんだから。」
「アイスコーヒーよりパフェの方が200円も高いじゃないか。」
「唯のオリジナルだから割増し料金なの。」
「横暴だぞ。」

 普段ならこの辺で唯が白旗上げるんだけど、今日はちょっとした考えがあるんだ。
「先に唯のアイスコーヒーを飲じゃったお兄ちゃんがいけないんだよ。」
「作った後に放っておく唯が悪い。」
「今から飲もうと思ったの! 昨日だって唯が最後の楽しみに残しておいたハンバー
 グを1切れ食べちゃうし・・・。」
「貧乏たらしくいつまでも手を付けないからだ。」

「二人共いい加減にしなさい! 友美ちゃんごめんなさい騒がしくて。」
 お母さんが友美ちゃんのオーダーしたオレンジジュースをトレイにのせて間に入っ
て来る。

「いえ、もう馴れてますから・・・。」
 どーゆー意味よ、友美ちゃん・・・。

「ほんとにもう・・・、今日はわたしの奢りだけど・・・。」
 お母さんはもう一つトレイにのっていたアイスコーヒーをテーブルの上に置きなが
ら唯とお兄ちゃんの顔を交互に見て、
「二人とも、この手は二度と通用しませんからね。」
 ばれてたみたい、でもアイスコーヒー得しちゃった。

「ありがとう、お母さん。」
 一応お礼を言ってお兄ちゃんの隣に腰を下ろす。
(作者注:賢明なる読者諸君にはおわかりだろうが得をしたのは友美と龍之介だけで
 ある。)

「あきれた、今のお芝居だったの?」
 友美ちゃん、本当に呆れた顔してる。
「ん、まぁ途中からな。珍しく唯が俺にくってかかるから・・・。」
「作戦成功だね」
「ああ、でも次はまた別の手を考えないとな。」
「ふふふ。思い出しちゃった。」
「何だよ、友美。」
「5年前だったっけ、唯ちゃんが最初に来たときの夏休み。」
「ああ、あれはひどかった。2週間残っていた夏休みが実質1週間になっちまったん
 だから。」
「そうじゃなくて、あの頃からずっと二人は仲が良かったって言いたかったの。」
「んなことねーよ、5年も一緒に暮らしていれば喧嘩することだってあるさ。」

 そうだね、喧嘩もしたし、泣かされたこともあったね。
 でも喧嘩してもすぐに仲直り出来るんだよね。
 唯が先に謝ればだけど・・・。
 唯が謝らないといつまで経っても仲直り出来ないんだよね。
 だからいつも唯が先に言うの「ごめんなさい」って。
 だって唯はいつでもお兄ちゃんの・・・。

「おい、唯。どうした。」
「えっ、なに。」
「どうしたんだボーッとして。」
「ごめん。あっ、そう言えば陸上部どうなったの?」
「断ったよ。強要されてなにか始めるのっていやなんだ。」
「やればいいのに女の子にもてるわよ。」
「ふん、確証が無いね。」
「そうかしら・・・ジャーン。他のクラスの子に頼まれたんだけど。」
 友美ちゃんが鞄の中から取り出したのは可愛く折られた手紙だった。
「い、一通だけじゃないか。」
 お兄ちゃんってば動揺してる。
「えっ? これが最初の一通なの? ・・・変ねぇ。」
「何だよ、他に心当たりがあるのか?」
「まぁ、ちょっと・・・。」

 あっ、友美ちゃんこっち見ないで。・・・って一瞬目が合っちゃった。けど、さり
げなく目線を外す。

「ははん。」
 それでも友美ちゃんにはわかっちゃったみたい。そして何故か出した手紙を鞄の中
に再び仕舞い込む。

「お、おい、それは俺宛の手紙じゃないのかよ。」
「そうだけど気が変わったわ。誰かさんが渡してないんだもの。」
「誰かさんて誰だよ。」
「さあ? ・・・じゃ、あたし帰るわ。美佐子さんごちそうさま。」
「こら、待て友美。その手紙を置いていけ。」
 友美ちゃんはその声を気にすることなく、カウベルの音を残して『憩』を出て
ちゃった。

「ったく、訳がわからん。」
「さっ、十分涼んだし唯も部屋に戻ろーっと。」
 お兄ちゃんはグラスに残った氷を見つめながらブツブツ言ってる。
 良かった、さっき友美ちゃんの視線が唯に向けられたことに気が付かなかったみた
い。
 喫茶室からリビングに通じるドアのところでもう一度お兄ちゃんの方を見たけど、
まだグラスとにらめっこしてた。

 リビングを通って、自分の部屋に戻る。自分の部屋って言うのはちょっと違うかな?
 大きな部屋を本棚で仕切ってお母さんと二人で使っているから。
  元々は綾瀬のおじさんとその奥さん、つまりお兄ちゃんのお父さんとお母さんが
使っていた部屋。
 唯の部屋は本棚の奥、ドアから遠い方。そこにベッドと机、それからドレッサー、
あとは大きな仕切り兼本棚が色んなものを兼ねるようになっている。

 机の上で鞄を開けてその手紙を出してみる。放課後に同じクラスの娘から
「鳴沢さん、これC組の綾瀬君に渡して。」
 と頼まれたもの。
 そして鍵付きの引き出しの中には折り方は違うけど多分中身は同じ手紙が2通、全
部で3通を机の上に並べてみる。

 ・・・あたし何やってんのかな? ばれたらお兄ちゃん怒るだろうなぁ。
 でも、これをお兄ちゃんに渡したら友美ちゃんに悪いよね。確かめたことは無いけ
ど、友美ちゃんはお兄ちゃんが好きなんだと思う。
 だからさっきも手紙を渡さなかったんだよ、きっと。

 でも、お兄ちゃんは友美ちゃんのことをどう思っているんだろ。単なる幼なじみと
しか見ていないのかなぁ。
 あっ、もしかしてお姉ちゃんかも・・・。
 前にお母さんと一緒にみんなで遊園地に行ったとき
「3人もお子さんがいるの? 大変ね。」
 ってどこかのおばさんに言われてたっけ。
 友美ちゃんがお姉さんで次がお兄ちゃん、一番下が唯に見えたんだろうなきっと。
 ・・・3人とも血が繋がってないのにね。

 血の繋がり・・・かぁ。
 血が繋がっていないお姉ちゃんの友美ちゃんは、弟であるお兄ちゃんのことが好き、
とまではいかなくてもそれに近い感情を持っているはず・・・、

 じゃあ、唯は・・・?
 血の繋がっていない妹の唯はお兄ちゃんの事を好きになっても・・・
 や、やだ、何考えてるんだろう、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。

 机の上に置いてある小さな鏡に自分を写してみる。髪に結わえた淡いブルーのリボ
ンが揺れる。
「唯はお兄ちゃんが欲しかっただけ・・・それ以上は望めないよ。」

                  ☆

「おい、唯! 入るぞ。」
 えっ、なに? お兄ちゃん! あ、手紙隠さなきゃ。
「ち、ちょっと待って・・・。」
 慌てて出しっぱなしの手紙を引き出しに仕舞い込む。

「何やってんだ?」
「な、なんでもないよ。それよりいいって言うまで入らないでよ。着替え中だったら
 どうするの?」
「この間一緒に風呂に入ろうとしたのは誰だ。・・・まぁいいや、それよりお前、俺
 に隠してることがあるだろ。」
「ゆ、唯がお兄ちゃんに隠し事? 唯にそんなこと出来るはずがないよ。」
「ほぉ〜。・・・シラを切るっていうんだな、よーし、俺の目を見ろ。」
 お兄ちゃんが唯の目を見つめてる。な、なんかドキドキして来ちゃったよ。
「もう一度聞くぞ。俺になにか隠してるだろ。」
「隠してないよぉ。」
 あ、ダメだ視線そらしちゃった。
「ほーら嘘ついてる。俺に隠し事なんて10年早いぞ。あきらめて早く出せ。」
「・・・お、怒らない?」
「いいから早く出せ。」
 恐る恐る引き出しを開け、中から3通の手紙を出す。

「やっぱり!」
「お、怒らないって言ったじゃない。」
「怒らないとは言ってないぞ。」
「う、いじわる。」
 渋々手紙をお兄ちゃんに渡す。うー友美ちゃんごめん。

「うんうん、これで俺にも春が来たな・・・って何だこりゃ。」
 どうしたのかな、差出人の名前見て文句言ってる。お兄ちゃんの好みの女の子じゃ
ないのかな?
「3通とも全部女子陸上部の部員からじゃないか!」
 何が書いてあるのかな? お兄ちゃんの肩越しに手紙をのぞき見る。

「陸上部に入ってね()」
 
「ぷっ、あははは」
「何がおかしいんだよ。」
「あ、ごめん。ぷっ、くくっ」
「・・・あーあ、唯にバカにされるとは俺も落ちたな。じゃーな着替えでも裸踊りで
 も勝手にやってくれ。」
 えっ、もう行っちゃうの、
「お、お兄ちゃん」
「ん?」
「あの、あさっての如月神社のお祭り行くんでしょ。」
「ああ、また3人で行こうぜ。・・・本当は女の子と行きたかったけど。」
「なによぉ、唯や友美ちゃんだって女の子じゃない。」
「友美は幼なじみじゃないか。」
 そうかぁ、幼なじみとしか思ってないんだ。
「唯は?」
「はあ? おまえは妹・・・みたいなもんだろ。」
 そう言い残してお兄ちゃんは部屋を出てってしまった。

 はあ、期待はしてなかったけどやっぱり唯は妹なんだ・・・。
 ・・・期待?
 何を期待するつもりだったんだろう?
 だめだよ。お兄ちゃんが唯のことを妹だって思っている限り、唯のことを普通の女
の子とは見てくれない限り、それ以上は望んじゃいけないよ。

 でも、もし・・・もし、お兄ちゃんが唯のことを、普通の女の子として見てくれた
ときは、そのときは・・・。
 いいんだよね、それ以上のことを望んでも。

 だったらそれまで唯は演じているよ、妹っていう役柄を・・・

『鏡の中のアクトレス』了


Zekeさんのうふふ☆な書庫へ戻る
このページとこのページにリンクしている小説の無断転載、
及び無断のリンクを禁止します。